東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)76号 判決 1963年5月30日
原告 吉田博
被告 特許庁長官
主文
特許庁が昭和三三年抗告審判第四八九号事件について昭和三七年四月二四日にした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一請求の趣旨
主文同旨の判決を求める。
第二請求原因
一 原告は、昭和三一年五月一四日、特許庁に対し、その発明にかかる「抄紙法」について特許出願をしたところ、昭和三三年一月三〇日、特許第一四八四八九号の明細書(以下引用例という。)を引用し、公知事実を単に寄せ集めることにより当業者の容易に考えられる程度のことであるとして、拒絶査定がされたので、これを不服とし同年三月六日抗告審判を請求し、昭和三三年抗告審判第四八九号事件として審理された結果、昭和三七年四月二四日右請求は成り立たない旨の審決がされ、同審決の謄本は、同年五月一二日原告に送達された。
二 原告の右出願にかかる発明(以下本願発明という。)の要旨は、「紙型原紙等の抄紙に際して銀塩のみを除去したる写真用印画紙屑を使用して、紙層密度のムラを防ぎ、糊料及び填料の分布の平均化を図ることを特徴とする抄紙法」にある。
三 本件審決の理由の要旨は、つぎのとおりである。すなわち、審決は、本願発明の要旨を前項と同様に認定したうえ、引用例には、本願発明の「方法に例示するものと同一または類似の化学薬剤を使用して写真用印画紙屑から乳剤(すなわち銀塩と膠等)を溶解脱落させ、乳剤を分離脱落させた後の紙はこれを製紙原料に再生還元する方法について記載されている。」とし、本願発明の方法と引用例の右記載とを対比し、「両者の実質的相違点は、引用例の方法が銀塩と膠等を紙より除去するのに対し、本願方法では銀塩のみを脱落させ、紙に含まれる糊料(例えば膠)及び填料を温存してそのまま再生紙の原料に使用する点のみに過ぎない。ところが本願において印画紙に所含の糊料及び填料を温存利用する点が仮りに紙型原紙の抄造に適し『紙層密度のムラを防ぎ、糊料及び填料の分布の平均化』をはかるに有効であるとしても、本願が要旨として紙型原紙の抄造のみを対象としていないことは明瞭であるばかりでなく、印画紙に通常含まれるような糊料及び填料がそのまま利用できるような紙の抄造を企図するにおいては、引用例の処理条件を緩和して銀塩のみ脱落させ爾余のものをそのまま利用するようなことは容易になし得る程度のことと認められる。したがつて、本願の発明は、引用公知事実から適宜推考できる程度のもので旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第一条にいう特許要件を具備しないものである。」というのである。
四 けれども、本件審決は、つぎの点において違法であり取り消されるべきである。
(一) 本願発明は、引用例のものとは、つぎのとおり異なり、引用例その他従前の技術または当業者の知識から容易に実施ないし、想到しうるものではないから、この点についての判断を誤つた審決は、違法である。
(1) 本願発明は、写真用印画紙に含まれている糊料および填料をそのまま利用して再生紙を抄造しようとするものではない。
本願発明においては、感光層、バライタ層および紙層からなる写真用印画紙屑を青化ソーダ、ロダンカリ、ロダンアンモン等の中性液に浸漬して、印画紙の最上層部に包蔵されるハロゲン化銀を複塩として溶離し、同層のゼラチン膜を残し、中層をなすゼラチンと硫酸バリウムからなるバライタ層および下層をなす紙層(糊料および填料を包蔵する。)をそのまま残し、その処理後、天日晒することなく積んでおいて、ゼラチンをホルムゼラチン化し、その糊着能力を増し、かつ、その糊着能力を平均化し、バライタ層内の硫酸バリウムの賦存を万遍化して使用する。本願発明においては、印画紙のパルプを使用するのではなく、ホルムゼラチン化したゼラチンと硫酸バリウムとパルプとの混合熟成体である一種のペーストとして、これを製紙原料の添加剤とするのであり、印画紙の構造体であるパルプとそのパルプに絡着賦存する糊料および填料を右の絡着状態において紙の抄造に利用しようとするものである。
ところが、引用例においては、写真用印画紙の廃品を青酸カリおよび苛性ソーダまたは青酸カリおよび苛性カリによつて処理して印画紙面に塗着された乳剤であるハロゲン化銀およびゼラチンを溶解脱落させた後のものを製紙原料である紙素に還元するのであり、その乳剤等を脱離した後の紙素を水洗し乾燥(天日晒)して製紙原料に還元使用するのである。
(2) したがつて、また、引用例の処理条件を緩和しても、すなわち、離脱薬の濃度や温度を高低しまたは処理時間を長短按配しても、含銀層はもちろん、バライタ層も全部脱離してしまいその後には紙素だけが残されるのであつて、本願発明のものにおけるように銀塩だけを脱落させることはできない。そして、本願発明の方法は、その出願前何びとによつても試みられたこともなければ、想到されたこともない。
(3) 本願発明におけるような態様にあるパルプは、ゼラチンおよび硫酸バリウムを万遍なく帯有しているので、これを白水(マツド)に混入するときは、白水内における糊料填料の誘導体となり、糊料填料の分布を平均化し、紙素相互間の糊着填埋の状態は万遍化される。したがつて、紙の内部構造において、ツレやパイプを生じないから、紙層密度を平均化することができ、そのために、紙型原紙として使用するに際し、押型の順応不良、不均一を皆無ならしめることができる。これに反し、引用例の製紙原料によつては、別にゼラチンや硫酸バリウムを添加しても、それらは遍在して本願発明の目的は達することができない。そして、本願発明の方法による製品は、日本全国の各新聞社はもちろん、その他の印刷業者においてもひろく使用され、その印刷上著大な利便を与えているばかりでなく、その出願以来輸出量も増加の一途をたどつているのであつて、その効果の著大であることが明らかである。そして、仮に、本願発明が当業者の容易に推考しうる程度のことであるとしても、これが右のような著大な効果を奏する以上、新規な発明というに十分である。
引用例においては、印画紙屑を紙に還元して製紙原料に使用するために処理がされ、それは、一面において紙を回収することを目的とし、他面にはハロゲン化銀を回収することを目的とし、その利用を目的とするものではない。したがつて、印画紙屑中における紙と含銀の分離だけについて技術的努力が用いられ、印画紙屑中に含まれるゼラチンや硫酸バリウムは顧みられず処理上の邪魔物として取り扱われ、その除去のために煩雑な努力がされた。ゼラチン等を除去しなければ天日晒の際に紙が固まつてしまうからである。ところが、本願発明においては、ハロゲン化銀だけを除去して他物質の脱離をしないから、引用例の離脱剤とはまつたく異なる中性液により浸漬処理をし、しかも、ハロゲン化銀除去後のゼラチン、硫酸バリウムおよび紙素を利用することを目的とし、これらを積んでよく混合熟成して製紙原料に添加するのである。このことは、本願発明の明細書により明らかである。このように、本願発明は、印画紙屑の処理方法、処理手段、その利用方法、利用手段のいずれにおいても、引用例とは構想の分野と類型を異にし、まつたく新規で当業者の容易に想到しえない進歩した技術である。なお、写真用印画紙屑中の含銀量は、本願発明出願の当時においてはきわめて微量であり、引用例の出願公告(昭和一六年一〇月二八日)当時の比ではなく、当時は国際情勢上銀が貴重扱いされていたが、現在ではそれ程にも扱われず、本願発明においてはその実施上印画紙含有の銀塩は放流されており、かつ、採算に合うような採取可能量に達していないのである。
(二) 審決には、理由不備の違法がある。
審決は、「印画紙に通常含まれているような糊料及び填料がそのまま利用できるような紙の抄造を企図するにおいては、引用例の処理条件を緩和して銀塩だけを脱落させ爾余のものをそのまま利用するようなことは容易になし得る程度のことである。」と説示しているが、これは、単に本願発明は容易になしうるものであるというに等しく、引用例から、何故印画紙屑の銀塩を脱離することが容易なのか、何故本願発明が爾余のものをそのまま利用するものと認めうるのか、処理条件の緩和によつて銀塩だけの脱離が可能でかつ爾余のものが得られるかについて明らかにしていないから、何ら理由を示したことにならないし、その他審決のどこにもその理由が示されていない。まして、処理条件の変更ないし処理工程の簡素化だけによつてもこれを新規な発明としうる場合が多々あるのであるから、審決がこの点において失当であることは明らかである。
(三) なお、本件拒絶査定は、査定前拒絶理由通知書によつて原告に通知された事由のほか、本願発明においては(1)銀塩だけを除去する具体的方法が示されていない、(2)引用例との差異が明らかでない、(3)印画紙再生パルプを用いると印画紙のような性質を発揮することは当然予想できるとの理由を加えて、されたけれども、この(1)および(2)の理由については、旧特許法第七二条の手続を欠いているので、右査定は違法であるところ、本件審決が、前記(二)の冒頭掲記の新たな理由で原告の抗告審判の請求を排斥したのは、違法な右査定手続を前提とし、かつ、本件審決自体右新たな出願拒絶の理由について原告に意見書提出の機会を与えなかつた点において、同法第一一三条に違背してされた違法がある。なお、右に本件審決の理由が新たな拒絶の理由であるというのは、つぎのとおりである。すなわち、本件査定においては、印画紙をシアン塩等により処理し、銀塩を除去してパルプを再生することは公知であるといい、本件審決においては、引用例の処理条件を緩和して銀塩を脱落させ爾余のものをそのまま利用することは容易にしうる程度のことであるというが、前者は、印画紙屑の有する物質の採取技術の問題に関し、後者は、その物質の利用技術の問題に関するものであるから、両者は、たがいに技術の種類をまつたく異にし、したがつて、後者は前者と異なる新たな拒絶の理由を掲記したものといわなければならないのである。
発明の技術範囲は、特許請求の範囲だけから解すべきではなく、明細書全体に徴して判断すべきものである。このことは、特許請求の範囲に「本文に詳記する如く…………」と記載されていることによつても明らかである。
よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める。
第三被告の答弁
一 「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。
二 請求原因第一ないし第三項の事実は認める。
同第四項の点は争う。
本願発明は、その特許請求の範囲の記載によれば、その「紙型原紙等」の文字から特定の紙の抄造法に限られないことが明らかであり、また、銀塩だけを除去(糊料および填料を含む。)した印画紙屑を使用する抄紙法であるから、糊料および填料がそのまま利用できる抄紙法と解せざるをえない。原告は、本願発明は銀塩だけを脱落させ爾余のものをそのまま利用するものではないというが、その特許請求の範囲の項の記載からはそのような解釈はでて来ない。「紙層密度のムラを防ぎ、糊料及び填料の分布の平均化を図る」との点については、具体的手段が発明の要旨として規定されていないから、そのような作用効果を具現するためには、銀塩だけを除去した写真用印画紙屑を使用するをもつて足りると解するほかなく、本願発明は、銀塩等を除去した写真用印画紙屑を再生紙の原料とする点が示されている引用例の公知事実から容易に推考しうるものといわざるをえない。また、本件審決には原告の主張するような新しい拒絶理由が付加されているわけでもない。結局、本願発明は、本件審決がその理由において明らかにしているとおり特許要件を具備しないものであるから、原告の本訴請求は、失当として棄却されるべきである。
第四証拠<省略>
理由
一 本件審査および審判手続の経緯、本願発明の要旨、本件審決理由の要旨についての請求原因第一ないし第三項の事実は、すべて当事者間に争がない。そこで、本願発明が引用例記載の公知事実から当業者の容易に推考しうる程度のものであるかどうかが本件における争点であるので、以下この点について判断する。
二 成立について争のない甲第二号証(本願発明の訂正明細書)によれば、(一)本願発明がされるにいたつた経緯について、従来印刷用紙型原紙等の特殊原紙の製造に当つては種々の種類およびサイズのパルプを混用してなるマツドにゼラチン等の糊料および諸種の填料を投入してすいたものであるが、糊料の添着および填料の分布を平均させることがきわめて困難であつて、その成否はただちに製品を左右し、右の不平均は原紙等の内部構造にツレやパイプを作り、そのために特に原紙等の使用時に活字による押型に順応不良や不均等の原因を作つたところから、これらの欠点を除くため、糊料および填料を帯有するパルプをそのまま混用するとの着想にもとづき、これらの資料を多量に保有する写真用印画紙屑を用い、これを打解してよく積んだうえ、マツドに混入し所期の目的を収めるにいたつたが、これは、その印画紙屑を組成する短繊維が糊料および填料を帯有したまま、他のパルプや糊料、填料の間に絡んでその間隙をみたすと同時に他の糊料および填料の働きを良好にするためであることが推知されるにいたり、ここに本願発明をみるにいたつたことが認められ、(二)さらに、同号証には、本願発明は、写真用印画紙屑中におけるゼラチン類およびバライタ層を溶離することなく単にハロゲン銀だけを溶離し、ゼラチン等および硫酸バリウムを保有する印画紙屑を得てそのパルプに帯有されるゼラチン等および硫酸バリウムを糊料および填料の用に供するとともに、これをもつて抄紙における糊料および填料の分布を均等化しうることを特徴とするものである旨記載されており、この記載と前示認定の本願発明の経緯とによれば、本願発明の抄紙法において、これに使用される写真用印画紙からハロゲン銀だけを溶離(除去)するとは、その余の成分要素については印画紙の当初の構成ないし状態のままとし、ただハロゲン銀だけを除去するという趣旨ではなく、印画紙屑からハロゲン銀を除去する化学的処理をした後のハロゲン銀以外の糊料、填料、パルプ等の混した資料を利用しようとする趣旨にかかるものであることがうかがわれ(この点は、成立について争のない甲第一号証(意見書)、同第三号証(抗告審判請求書)において原告も明らかにしているところであるし、また、写真用印画紙は、(1)原紙、(2)硫酸バリウム、ゼラチン等を含むバライタ層、(3)主としてハロゲン銀から成る乳剤層および(4)乳剤層を保護するゼラチンの保護膜層から成るのが普通であるから、この保護膜層に手をつけることなくしては、ハロゲン銀を除去しえないことによつても明らかである。)、したがつてまた、本願発明において、印画紙屑からハロゲン銀だけを除去するとは、右の意味において、可能であるといつて妨げがない。そして、本願発明は、このような資料を他のパルプや糊料、填料に混入使用することによつて、製造する紙の紙層密度のムラを防ぎ糊料および填料の分布の平均化を図る抄紙法にその要旨があるわけである。(三)なお、このように混入使用されるべき右資料の数量的限定等については、本願発明の明細書にその明示がないとしても、すでに前示のとおり本願発明の技術的構成が明らかにされており、製造すべき紙の種類品質等と本願発明が達しようとする右目的とに応じおのずから当業者においてこれを選びうるところであろうし、後日この点について特定の限定した条件のもとで特に顕著な効果を収めるにいたつたとすれば、その者は、新たな権利を得る余地も考えられないわけではないから、にわかにこの点から本願発明を特定技術の開示となりえないものとまでいうことは相当でない。(四)また、前掲甲第二号証には、本願発明の効果について、紙の繊維相互間の間隔と空隔および糊着状態が均等化され、紙の内部構造にツレやパイプの出来るのを防ぎ、紙層密度を平均にし、原紙等の使用に際しては、裂損および押型の不順応、不平均をなくすことができて、その効果は著大である旨記載されている。そして、以上を受け、その特許請求の範囲の項において、冒頭に「本文詳記の如く」とし、前示本願発明の要旨と同一の記載がされていることが明らかである。
右によれば、この特許請求の範囲の項の記載は、「紙型原紙等」の文言その他に限定上の表現の不適切な点などがいくぶんあり明確にすることが望ましいとしても、全体として以上のとおりの発明についてその構成に欠くべからざる事項を掲げたものと解するに妨げがない。なるほど、右特許請求の範囲の項には、写真用印画紙屑から銀塩だけを除去したその余の成分を、水洗し乾燥することなく積んでおきその成分中ゼラチンがホルムゼラチン化して糊着能力を増すとともに各部に平均した糊着能力を備えるにいたり、かつ、硫酸バリウムを遍在させることなく包介するにいたつた状態で使用するとの趣旨に応ずる直接明確な表現がないけれども、右特許請求の範囲の項の記載にもとづいて、前示本願発明の内容を明細書のその余の記載に徴し考察するときは、それが被告の主張するように単純にパルプまたは糊料、填料をそれぞれ各別のものとして利用する趣旨のものと解するのは相当でなく、かえつて、それらの成分を一体的に利用しようとするものであることを了解することができる。
これに対し、成立について争のない乙第一号証(引用例)によれば、引用例は、写真用印画紙の不良品または截断屑を原料としその塗付乳剤たるハロゲン化銀およびゼラチンを原紙から化学的処理により分離し、紙は製紙原料として更生し、溶解分離液からは純銀を回収する発明にかかり、紙原料と銀との両者を品質低下することなく僅少の経費でともに回収させることを目的とするものであり、「写真用印画紙の廃品(未現像)を青酸加里及苛性曹達又は苛性加里にて処理して印画紙面に塗着せる乳剤即ちハロゲン化銀及ゼラチンを溶解脱落せしむる第一工程と次に乳剤を分離脱落せしめたる後の紙を水洗乾燥し製紙原料に還元する第二工程と更に印画紙面より溶解脱離せしめたる溶液に苛性曹達及硫化曹達又は硫化加里を作用せしめて硫化銀となし之を沈澱瀘過して乾固の上灰吹法にかけ純銀に還元なす第三工程との結合に依つて写真用印画紙及其截断屑より紙原料及銀を回収する方法」を特許請求の範囲とするものであることが認められる。
三 以上認定の事実によれば、引用例は、写真用印画紙屑からもつぱら紙原料と銀との両者を回収する方法にかかり、一方、本願発明は、写真用印画紙屑から銀塩だけを除去し、前示のとおり写真用印画紙特有のパルプ、糊料、填料の成分のすべてを抄紙に利用し、その明細書(甲第二号証)記載の前示の効果を収めるよう図つたものであることが明らかであり、したがつて、紙原料および銀の回収を主眼とする引用例に対し、写真用印画紙屑の銀塩以外の成分を他のパルプ、糊料および填料に混入し総合的に利用して抄紙する方法についての本願発明は、引用例における回収物が再度の利用を予定するものであるとしても引用例においてはその利用の技術にまで及ぶものでないから、技術的思想内容において明らかに異なるものといわなければならない。右のとおり、本願発明と引用例とは、技術について明らかな差異があるところ、原告は、さらに、本願発明の収めるべき前示二の(四)掲記の効果について、その出願以来終始これを強調して来たことが成立について争のない甲第一ないし第三号証および第七号証によつて明らかである。そして、もし右効果が認められるにおいては、これまでに本願発明の方法を実施したもののあることをうかがうに足りる資料の明らかにされていない本件においては、本願発明を引用例の右公知技術から容易に推考しうるものとするに由ないものといわざるをえない。それにもかかわらず、本件審決が本願発明の右効果については少しも触れるところなく、しかも、これと右のとおり異なる技術にかかる引用例の公知技術から本願発明を容易に推考しうる程度のことであると速断したのは、結局、審理不尽、理由不備のそしりを免れない。
四 右のとおりである以上、本件審決は、審理不尽、理由不備の違法があるものとして取消されるべく、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 関根小郷 入山実 荒木秀一)